05« 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.»06

ふであと

  : 

徒然なるままに、もの書き。

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
スポンサー広告  /  tb: --  /  cm: --  /  △top

第四章 「光の英雄」_06 

 アーヤに連れられて、カペルはフェイエール城のテラスへと出た。青白い月光が褐色の街並みを染めているのが一望できる。街はまだ眠ってはいない。家々から溢れ出る明かりが月光と混じり合い、大地に星空を演出していて、その美しさにカペルは感嘆した。
「綺麗でしょ」
 テラスの手すりにもたれかかり、アーヤは星空を見下ろす。
「悩み事があるときは、いつもここに来るの。この夜景を見れば、嫌なことも忘れられるから……」
「悩みごと、あるんだ」
「……どこから聞いてたの?」
「さっきの話?」
「そう」
「……だいたい全部」
 それを聞くと、アーヤはうなだれて溜息をついた。
「あーあ、聞かれちゃった」
「きっと心配してくれてるんだと思うよ」
「そんなことはわかってるわよ。でも……」
 アーヤが振り向く。青白い月光が差し込むせいか、表情が重い。
「父様が言っていた儀式ってね、人間がハイネイルに生まれ変わるための儀式なの」
「生まれ変わる?」
「そう。資質を持った者が特別な儀式を受けることでハイネイルへと転生する。ハイネイルは元々は普通の人間なのよ」
「……」
「人間じゃなくなっちゃうのよ。今まで通りでいられると思う!?」
「なってみなくちゃわからないんじゃない?」
「なってからじゃ遅いのよ……」
 再び背中を向けたアーヤは、絞り出すように呟いた。
「私、自信がないの……。今まで通りでいられないんじゃないか、何か大切なものを失っちゃうんじゃないか、って……怖いのよ」
 かける言葉がない。親が自分のためを思って言ってくれていることにどう答えればいいのか。ハイネイルになるということがどういうことなのか。どちらもカペルにはわからない次元の話なのだ。助言のしようがない。アーヤも、自分に助言を求めているわけではないのだろう。話を聞くだけでもいいのかもしれない。
 ただ、彼女に何かしてあげたいという思いがカペルにはあった。
 言葉がないのなら、カペルに出来るのは一つだけだ。
 落ち込むアーヤの背中を見ながら、カペルはいつも身につけているフルートを取り出した。唇を合わせ、いくつかの穴を指でふさぎ、そっと息を吹き込む。旋律は思いつくままに。夜風に任せ、星空に歌うように重ねていく。
 アーヤが耳を傾けているのを確認しながら、カペルは続けた。
「……きれいな曲」
 演奏を終えると、アーヤがぽつりとそう漏らした。
「この曲のタイトルはね」
「やめて、聞きたくない。どうせ変なタイトルなんでしょ?」
 そう言って両耳をふさぐ。アーヤの言うとおり、今思いついたタイトルは「泣き言を言うための練習曲(エチュード)」だ。
 ……言わない方が良いか。
 目が合うと、アーヤはにこりと笑ってくれた。多少は役に立ったのかな。
 今は難しくても、いつかアーヤは答えを見つけるのだろう。それでいいと思う。その時には、僕も何か言ってあげられるかもしれない。だから、これでその話はおしまいにしよう。
 カペルは大きく伸びをしてみせながら、話を変えた。
「でも、アーヤがお姫様かぁ」
「何よ」
「髪を一つにまとめてるのもなかなか似合うよね」
「そ、そうかな」
「うん。普段と違うから新鮮っていうか。ファイーナさんみたいにちょっと女の子っぽく感じるっていうか」
「……」
「たまには良いと思うよ。アーヤが女の子っぽくしたって何の問題もない……ぐはっ!」
 アーヤの拳がカペルの腹に深く突き刺さった。カペルの身体がくの字に折れ曲がる。あばらの二本くらいは持って行かれたか。
「ア、アーヤさん。な、何か気に障ることを言いましたでしょうか……」
「うるさい! バカペル!!」
「ひどいよぉ」
 身体を折ったまま視線だけを上げてアーヤの方を見ると、彼女が睨む視線をこちらに向けていた。
 いつも通りの彼女の目。さっきまで真剣な話をしていたのに今はこれだ。
 アーヤがお姫様だったというのに、何も変わらない。カペルはそれが急におかしくなって、思わず笑い出してしまった。合わせたようにアーヤも一緒になって笑い出す。
 もしアーヤがハイネイルになったとしたら、こんなやりとりも出来なくなるのか。根拠はないけれど、たぶんそんなことはないだろうとカペルには思えた。アーヤはアーヤだ。
「ふふふ。カペル、ありがと。話したら、ちょっと気が晴れたわ」
 夜の闇に沈むようだった彼女の表情に、月明かりに照らされた微笑が浮かびあがる。「部屋の場所、わかる?」と続けられた声音がすっかりいつもの調子で、やはりアーヤはアーヤなのだと納得したカペルは、「たぶん」と彼女に答えた。
「じゃあ、私、部屋に戻るね」
「うん」
「おやすみ、カペル」
「おやすみ、アーヤ」
 街の明かりが徐々に消え始め、眼下の星空が少しずつ寂しくなっていく。
 アーヤを見送ってから、しばらくの間、カペルはその様子をぼんやりと見つめていた。

【小説インフィニットアンディスカバリー】
【Prev】/【Next】
スポンサーサイト

テーマ: 二次創作:小説

ジャンル: 小説・文学

コメントの投稿

Secret

△top

この記事に対するコメント

△top

トラックバック

トラックバックURL
→http://amaenovel.blog78.fc2.com/tb.php/70-3d2f0413
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

△top

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。