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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第四章 「光の英雄」_13 

 月明かりがいつになく青く、部屋の中の滞留物をキラキラと照らし出す。この光に比べれば、松明の明かりなど無粋でしかない。それでも今の自分にはいくらか冷たく感じられると、ミルシェは光の差し込む窓に目を向けた。
 そこに、シルエットが一つ。
 普段は鎧の下に隠している傷だらけの身体をさらけ出し、ぼんやりと窓の外を見る彼の姿が、今はいつもより遠くのものに思える。
「皮肉なものだな……」
 外に目をやりながら、シグムントが言った。
「大切なものを失い、悲嘆にくれて全てを捨て、新たな一歩を踏み出したはずが」
 彼がこちらを振り返ると、月明かりとは別の光が右手の甲からあふれ出していた。暖かな月印の光。それを見つめながら、シグムントは静かに続ける。
「……運命には抗いようがない、か。いや、むしろ感謝すべきか。大切なものを取り戻すことが出来たのだから」
「大切なもの?」
 ミルシェの疑問に答えず、彼はただ優しく笑うだけだ。出会った頃には見せなかった、柔らかい笑み。
 彼は変わった。
 光の英雄と呼ばれ、その役割を淡々とこなし続ける人形のようだった彼が、こんなにも優しく笑うようになった。彼を覆っていた堅い皮膜が、いつからか溶けてしまったかのように。しばらく離れていた間になにかあったのだろうか。なんとなくだが、ミルシェはその答えがわかるような気がしていた。
 カペルくん。
 彼とそっくりのあの男の子が、たぶん彼を変えたのだ。理由はわからない。姿がそっくりだから? たぶん、そうじゃない。もっと他の理由があるのだろう。そして、尋ねても彼は教えてはくれないだろう。だから、ミルシェはそれ以上、言葉を重ねることはしなかった。
 少し、くやしいな……。
 男の子に嫉妬している自分がおかしくて、ミルシェは少しだけ、そんな自分を笑いたくなった。
「明日は早い。もう寝た方がいい」
「うん」
 形だけにしかならない治療を終えれば、いつものように部屋を出る。
 押し開けると、建て付けの悪い宿のドアが音を立て、それが静まった廊下に響いた。
 そこで、ミルシェは足を止めた。
「……今日は、帰らないわ」
 同じように言ったことは何度もあった。その度に無言で否定されれば、同じだけ胸中で罵倒したものだ。女心もわからないくせに何が英雄よ、と。だけど、そんな彼だからこそ追いかけたくなったのかもしれない。硬質な印象ばかりが目立っていたが、放ってはおけないと思わせる弱さ、心の傷のようなものが見え隠れしていた。自分と同じだ。違うことは、彼はたぶん、自分の弱さに無自覚だったということ。だから、無茶をする。だから、こんな身体になってしまう。
「……わかった」
 ただ、今日は、彼が自分のわがままを受け入れてくれるような気がしていた。その予感は当たった。もう一つの予感は、当たらないでほしい……。
「運命に感謝すべき事がもう一つあった。君に出会えた。ありがとう、ミルシェ」
 自分だけに向けられた優しい笑みと、その向こうに見える暗い影の予感に、ミルシェの頬を一粒の雫が伝った。

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