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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第四章 「光の英雄」_19 

 ぱらぱらと何かが頬を打つ。
 茫漠とした意識が最初に焦点を合わせたのは、その感覚だった。目を開けると、青い空と塔の外壁が視界を二分していて、自分はそれを仰向けに見上げているのだと理解する。
 助かったのか……。
「起きたか、カペル」
 石畳に冷やされたからか、それとも落下の恐怖からか、強張っていた身体を無理矢理動かしたカペルは、上体を起こして声の主を見つけた。シグムントは、塔の外壁にもたれかかって座り込みながら、月印の力で怪我の治療をしているところだった。
 肩当ての無くなった左腕を抱えるように月印の光をあてがっている。
 改めて自分の身体を見直してみるが、シグムントと違って、怪我らしい怪我はほとんどない。怪我をしないように助けられたのか、もしかしたら意識を失っている間に治療をしてくれたのかもしれないが、いずれにせよ、シグムント自身よりも自分を優先してくれたのだろうことは判断でき、助けられたのだという実感がカペルに礼を言わせた。
「あの、ありがとうございます。助けてもらっちゃって」
 間の抜けた感謝の言葉を伝えると、シグムントは視線をカペルに据えて言った。
「おまえは私が守る。そう決めたのだ。礼を言う必要はない」
「僕を……守る?」
 予想していなかった言葉に頭が混乱し、「何故?」という一言が声にならずに腹に沈んでいく。僕を助けるために怪我をして、それでレオニードに負けてしまったら本末転倒だ。どうしてそんなことを……。
 ただ、怪我はそれほどひどい状態ではないらしい。ふと塔の壁面を見上げると、直線に抉り取られた跡が見えた。落下の恐怖を思い出した身体がぶるりと震えたが、自分が無傷なことも合わせて、シグムントが上手くやってくれたのだろうとカペルは胸をなで下ろした。
「カペル、おまえに話しておくことがある」
 不意にシグムントが言った。重大な話だという予感が心臓を跳ね上げたが、「どうしたんです、あらたまって」と、カペルはあえて気軽に返事をしてみた。
「私は鎖を斬ることができなくなった」
「へぇー、鎖を……って、ええ!?」
 冗談なのか? いや、こんな冗談を言うような人じゃない。それがわかるからこそ、ことの重大さに呆然とする。シグムントが光の英雄と呼ばれるのは、誰にも斬ることの出来なかった月の鎖を斬ることができたからだ。それができなくなったとシグムントは言う。
 もしそれが本当ならば、これからの戦いはどうするつもりなのだろう。鎖を斬ることが出来ないのなら、戦う理由もなくなってしまう……と考えたところで、もう一人、鎖を斬ることのできる人物に思い当たったカペルは、シグムントが自分に何を言いたいのかがわかってしまった。
「カペル、これからはおまえが解放軍の剣となれ。私はおまえを守る盾となろう」
「剣って……。僕、いざとなったら逃げちゃうようなやつですよ?」
 つまり、シグムントの代わりをやれと言っているのだ。その確信がカペルの声を微かに震えさせた。
 ここまで来たのは、あくまで解放軍のゲスト、おまけとして自分を見ていたからだ。居心地の良さもあいまって、気軽についてきたという自覚がある。
 それが、事の中心に据えられるというプレッシャーに取って代わる。以前、青龍に言われた「避けられぬ戦いが待っている」という言葉を思い出すと、脳裏に浮かんだ未来に血の気が引くのがわかり、心臓を鷲づかみにされるような感覚に汗が背中を伝った。
 それを見透かしたのか、ふっとシグムントの表情が和らいだように見えた。
「逃げるか。それもいいさ。おまえはおまえのままでいい」
「いいんですか!?」
「……だが、カペル、これだけは覚えておけ」
 それもいいさと言われても逃げ出せないことくらいはわかる。それでも優しげなシグムントの声音にいくらか楽になった気分は、シグムントの次の言葉を待っていた。
「大切なものを見つけたら、何があっても守り通せ。何があっても、だ」
「大切なもの……」
 咄嗟には思いつかず、カペルは言葉に詰まった。
 ずっと一人で生きてきた。家族も居なければ友人もいなかった。
 ずっと世界と距離を取ってきた。自分の居場所のない世界なら、近かろうが遠かろうが関係がなかった。
 だから、大切なものと急に言われても困る、というのが正直な気持ちだった。自分にとって大切なもの。それが何であるかがわからない。見つかるのかもわからない。もしかしたら、これからもずっと……。
 ふと、この戦いに巻き込んだ張本人の顔が脳裏をよぎった。艶やかな黒髪を揺らしながら、頭の中のアーヤがいつものようにプリプリしている。
『後ろ向きに考えるのはやめなさい。ねっ、バカペル』
 そう言われた気がして、カペルは思わず苦笑した。
 彼女らしい言いぐさだな……。
 そう思える自分に出会ってからの時間の密度を再確認すると、すっと軽くなった気分が「やれるだけやってみます」という言葉を続けさせた。
「ああ、それでいい」
 これで話は終わりだ、とシグムントは腕の怪我に視線を落とした。
 シグムントが黙々と治療を続ける中で、ただ時間と沈黙が降り積もっていく。
 思えば、シグムントは不思議な存在だった。自分と瓜二つで、たぶん年齢もさして変わらないはず。にもかかわらず、出会い、ともに戦う中で、常に見守られているという安心感がカペルにはあった。自分とは違い、世界と向き合ってきた生き方によるものなのか、それとも生来の何かがそう思わせるのか。それはカペルにはわからないが、「おまえを守る」と言われたときの温かな感触だけは忘れないだろうと思える。これから先の戦いを思うと不安にもなるが、同年代とは思えぬ落ち着きぶりのシグムントに見られているのなら、安心できてくるから不思議だった。
 さっき言ったとおり、やれるだけやってみよう。

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