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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第四章 「光の英雄」_22 

 荘厳な印象もあった下層とは違い、中層から先は不気味ささえ漂わせる薄暗さだった。
 内部に再び侵入したカペルとシグムントは、抵抗はおろか人の姿さえ見あたらない通路をひたすら歩いていた。封印騎士の一人が言っていたように、レオニードはシグムントを待っているのかもしれない。罠とも余裕とも取れる状況に竜骨の祠で見た仮面を思いだし、カペルは肌が粟立つのを感じた。
 それでも、なんとかなる。離ればなれになったアーヤたちとも、当たり前のように再会できる。そう楽観できるのは、シグムントの背中を見て歩いているからだろうか。
 通路の闇が払われた一角に出る。転送陣だ。
 迷うことなく光の中に消えたシグムントを追うと、その先には大階段があり、見上げたそこにはぽっかりとくりぬかれた青空があった。
 頂上だ。その先には月の鎖があり、そして、おそらくレオニードがいる。
「行くぞ」
 振り向いて言うシグムントに一つ頷き、カペルは階段を上り始めた。
 一歩ごとに強くなる陽光に目を細くし、吹きつける風に髪がなびく。足取りは思っていたよりも重くない。負けることを想像させない背中を見上げ、当たり前に勝って帰れるという思考を引き寄せながら踏み出した足が、階段の終わりを告げた。
 
 円形に広がる塔の屋上は、その中央部に祭壇のような台座を構え、そこから天を貫く巨大な鎖を伸ばしていた。燃えるような赤い光球を支点にして螺旋を描く基部。カペルには理解できない文様を浮かび上がらせながら、ぼんやりと光を湛える巨大な鎖。何度か見たそれと変わらぬ姿を視界に納めると、鎖を背にした二つの人影が目に入った。
 添うように横に立ち、深紅の髪とドレスを風にはためかせているのはサランダだ。そして、台座に腰掛け、高所からこちらを見下ろす男はレオニード。竜骨の祠で見たのと同じ黒塗りの甲冑に身を包み、銀髪を風に揺らしながら、隠すでもなく人を軽侮する目を仮面の下から覗かせている。背中からだらりと下げた赤い鎖が血を連想させ、直接間接問わず、敵味方も問わず、この男は今までどれほどの流血を引き起こしたのだろうかと考えたところで、レオニードが片笑むのをカペルは見た。
「待っていたぞ、英雄殿」
「レオニード……」
 月の鎖を打ち込む男と、それを断ち切る男。
 これまでの封印軍との戦いは、極論すればこの二人の戦いなのだ。数年分の因縁を含んだ視線が交錯し、空気がずしりと重くなる。
「前に会ったのも、ここであったかな?」
「……」
 無言を返し、シグムントは剣を抜く。つられて剣を抜いたカペルだったが、二人の戦いに入り込む余地など無いだろうことは想像に難くなかった。なら自分には何が出来る?
 不意に悪寒が走り、その元凶を探したカペルはサランダと目を合わせた。品定めされるような感覚は前にもあった。美人にそうされれば悪い気はしないというのがいつものカペルだったが、状況が状況だけにそうも暢気ではいられない。サランダが手に持つ鞭のような一本の鎖が太陽の光を赤く反射し、それにも血の色を見たカペルは、あの人も強いんだろうなとぼやけた思考を巡らせた。
「あっ……!」
 そして、カペルは気づいてしまった。
 もしかして、僕が戦うの……?
 見回すまでもなくここにいるのはカペルとシグムントの二人だけで、相手も同じように二人。考えるまでもなくシグムントはレオニードと戦うのだろうから、必然的にサランダの相手はカペルがすることになる。
 当然の帰結に身が震え、喉まで出かかった弱音をなんとか飲み下す。それを見透かしたサランダがサディスティックな笑みを浮かべれば、飲み下したそれがもう一度せり上がってくるが、カペルは何とか、力なく笑うだけにとどめた。
「カペル」
 シグムントに呼ばれ、カペルはビクリと身体を硬直させた。
「おまえは身を守ることに専念しろ。そして、鎖を断つ隙をうかがえ。私が必ずその隙を作り出す」
「は、はい」
「……大丈夫だ、カペル。私を信じろ」
 自分が加勢できるとも思っていない。とにかく足を引っ張らないでいれば、シグムントが何とかする。人々の希望を一心に受けた男の言葉を、自分を信じろとはっきりと言った男の言葉を、今は信じるしかない。
「相談はもう済んだかな?」
 レオニードの声とともに、背中の赤い鎖が一つ、猛烈な勢いで空を斬った。
 シグムントはそれを打ち落とそうとしたが、触れた瞬間にゆるんだ鎖がその剣と右腕に絡みつく。シグムントをゆっくりと引き寄せながら、レオニードが続けた。
「あまり余を待たせるな。余は神の高みへと上り詰めなければならない。そなたらと違って無駄にする時間はないのだよ」
「神だと?」
「人に選ばれし英雄殿も、神に選ばれし余の前では格が違うと言うもの。それくらいはわかるであろう?」
 青龍との会話でも同じようなことを言っていたのを思い出す。神になる? 狂っているとしか思えない言葉を、仮面の下に見え隠れする狂気が裏付け、理解の及ばない、理解したくもない相手という認識をカペルは新たにした。
「……戯れ言だな」
「余の為すこと全てが真理だ」
 当たり前と言い放つこの不遜な男に、何故、軍と呼べるほどの人数が従うのだろうか。その答えをカペルが見つける前に、レオニードのマントの下にあった無数の赤い鎖が蠢きだし、戦闘の開始を告げた。
「英雄殿、そなたの命、我が神に捧げるとしよう」
「闇公子レオニード。全ての民にかわって、ここでおまえを討つ!」
 まとわりつく鎖を打ち捨て、シグムントは剣をレオニードに据える。
 自分にやれること。
 身を守れと言われたことを思い出し、カペルは視線をサランダに移した。瞬間、サランダの姿が消え、カペルの目の前に現れる。
「坊やの相手はこのあたしだよ」
 あごを撫でようと伸ばされた手をかわし、咄嗟に後ろへと跳びながら、カペルは剣を構え直した。
「あら、年上の女は嫌いなのかい? せっかく誘ってあげているのに、そんな嫌そうな顔をするものじゃないよ」
 高慢に笑う顔を背景に赤い鎖の鞭が揺れ、相容れない相手だと辿り着いた結論に、背中を汗が伝うのがはっきりと感じられた。
「大丈夫、殺しはしないさ。たっぷりなぶってあげるだけ。ふふふ」
 ざわりと心臓を撫でられたような感覚に襲われ、とにかく生き残ることだ、とカペルは硬直しようとする身体を叱咤した。

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