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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第四章 「光の英雄」_27 

 弱き新月の民を助け、この世界の歪みを正す。
 大仰な仕草に乗せて言うレオニードの言葉は、確かに美しく響く。だが、仮にそれがやつの本音であったとしても、このやりようは間違っている。新月の民を救うという大儀と、月の鎖で世界を腐らせているそのやり方には、大きな隔たりがある。今まで見てきた月の鎖に苦しむ人々の姿が、シグムントに迷うことなくそう結論づけさせた。
 だが、カペルは違う。
 手に持つ剣をだらりと下げ、その場に立ち尽くすカペル。
 すぐには掛ける言葉を見つけられず、シグムントはカペルの姿を見つめ続けた。
 カペル……。
「くっくっく……」
 レオニードの高笑が鼓膜を震わせ、シグムントはその敵を睨め据えた。
「見たか、英雄殿。言葉一つでこうもなびき、希望一つでこうも惑う。新月の民とはなかなかに面白いではないか」
「えっ……」
 カペルが唖然としてレオニードの顔を見る。次いでこちらに向けられた視線に、シグムントは目を伏せた。
 やはりやつも知っていたか。
 カペルが“新月の民”であることを……。
「だが、この揺らぎようこそが、そなたが守ろうとしているこの世界の歪み、その現れであろう。だから……というわけではないが、私は戦わねばならんのだよ。ははははは」
「おまえの欲望と、新月の民の苦悶を同列に語るな、レオニード。世界を腐らせながら神を気取るおまえを、私は止めに来たのだ」
「相互利益というやつだよ、英雄殿。彼らもまた自分自身のために余の下に集まってきたのだ。協力してくれるというのなら、断る理由も無かろう?」
 答える必要もない。永遠に平行線を辿るであろう議論に、シグムントは無言を以て終止符とした。
「ふむ。どうやら議論しても仕方ないようだな。ならば」
 マントの下から伸びる無数の鎖が、その一つ一つが意志を持っているように揺らぎ始め、レオニードの欲望を代弁するように怪しく光る。
「もうしばらく戦いに興じるとしよう」


 殺到する無数の鎖を打ち払いながらも、シグムントの視線がちらりとこちらにやられるのをカペルは感じた。
 だが、レオニードの言葉に混乱した頭はそれを受容せず、無数の疑問符を乱れ打たせている。
 今まで戦っていた相手が、自分と同じ新月の民だった?
 新月の民を救う力が、レオニードにはある?
 でもレオニードは新月の民を利用している?
 そして、僕が新月の民であることを、
「……シグムントさんは……知っていた?」
 最初に口をついた言葉にはっとして、カペルはシグムントの方を見遣る。
「そうだ、私は知っていた」
 レオニードが撃ち出した鎖が地を這い、床を突き破って跳ね上がる。刃となった鎖の乱立に甲冑を削り取られながら、シグムントはそれでもこちらをはっきりと見て、言った。
「カペル、私は知っていた。おまえが新月の民であることを」
「そんな……だったらどうして!?」
 どうして、そう言ってくれなかったんですか?
 どうして、僕なんかを仲間に迎えたんですか?
 どうして……。
 あふれ出す「どうして」を止められず、カペルはシグムントの視線を捉え続けた。
「くくく、偽物の方はなかなかにかわいいところがあるじゃないか」
 レオニードが笑っている。
 月印の力か、レオニードがふわりと宙に浮かび上がっていく。高所から人を見下す目を見、そこに映る侮蔑を見つけたカペルの頭は、新月の民なら誰でもすがりたくなるだろうレオニードの言葉とそれを重ね合わせて、さらに惑う。
 そんなカペルの混乱をよそに、放たれた無数の鎖がシグムントに降り注ぐ。
「カペル」
 鎖を打ち払うのに追われて、こちらに気を遣う余裕なんてないはずだ。それなのに、シグムントの声が自分を呼んでいる。
 はっとして顔を上げたカペルの視線がシグムントのそれと絡み合った。
 傷だらけの英雄。
 そんな状態でなお、僕に声をかける必要なんてないのに――
「どうして……」
 中空から全てを睥睨するレオニードの両手に、赤熱する火球が出現する。
「ときには、そなたも無様にわめいてみればどうだ。英雄殿」
 笑い、蔑み、レオニードは燃えさかる火球をシグムントに放った。放つとすぐに次の火球を作り出し、それを休む暇無く降らせ続ける。
 鎖に代わって殺到する火球を、シグムントは次々と斬り捨てていった。が、床に炸裂した火球の欠片が爆発し、立ち上がる爆風がその身体を焼いていく。致命傷にはならずとも、シグムントのダメージは徐々に蓄積されているはずだ。このままじゃ……。
「シグムントさん!」
 苦悶を浮かべたシグムントの表情を見、カペルは咄嗟に剣をレオニードに投げ放とうとした。だが、「させないよ」と聞こえたサランダの声が赤い鎖となり、カペルの剣をたたき落とす。そして、そのまま腕に絡みつく。
 レオニードがこちらを見た。汚いものを見るようなその目に映る狂気の炎を見て取り、カペルは身が竦んで動けなくなる。侮蔑と狂気に愉悦の色が混じり、レオニードが攻撃の対象をこちらに変えるのがはっきりとわかった。
 火球の一つが殺到してくるのをカペルは見た。
 そして、それを遮る位置に飛び込んできたシグムントの姿もだ。
 炸裂した火球がシグムントの髪をなびかせ、盾で防ぎきれなかった部分をじりじりと焼き焦がしていく。カペルは言葉を呑み、閃光に焼かれる視界に目を細めながら、ただその背中を見ていた。
 シグムントががくりと崩れ落ち、ぼろぼろになりながらも立ち上がろうとしている。
 どうして僕なんかを……。
 どうして新月の民である僕なんかを……。

「だがそれでも、おまえはおまえだ。カペル」

 爆風と床石の破砕する雑音の中で、その言葉は妙にはっきりとカペルの鼓膜を震わせた。
 背中越しに見えたシグムントの顔が笑っている。
 シグムントはすぐに剣を構え直して走り出した。
 その先にいるレオニードが、シグムントを見て嗤っていた。
 見逃してはいけないと弾けた思いがカペルを捉え、シグムントの背中を凝視させる。直後、何かに頭をつかまれ、カペルはうつ伏せに床にたたきつけられた。
「坊や、一緒に見物しようじゃないか。英雄がレオニード様の前にひれ伏すところをね」
 サランダの言葉はカペルには聞こえていない。
 カペルはただ、自分を守って戦う男の背中を目で追い続けていた。

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