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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第四章 「光の英雄」_28 

 身体が悲鳴を上げているのがわかる。それでも立ち止まることを許さず、シグムントは走った。揺らぎ、惑うカペルの様子にレオニードへの怒りが爆ぜ、身体を突き動かして絶叫となる。
「レオニード!」
 床を蹴り、宙に浮かぶレオニードに向かって猛然と跳躍する。放たれた火球を斬り捨てて肉薄すると、ニヤリと笑ったレオニードは、手甲の先についた鋭利な爪を突き出してきた。
 刺突と斬撃の攻防。
 互いに皮一枚を斬らせるぎりぎりの攻防の中で、跳躍の頂点に達したシグムントの身体が落下を開始する。そこを蹴り上げようとしたレオニードの足をかわして掴み、シグムントは相手を地面に叩きつけた。
 床を砕き、朦々と立ちこめる土煙の向こうから、シグムントの着地に合わせて赤い鎖が疾走してくる。
 シグムントは盾でそれをはじき飛ばし、次に伸びてきた鎖を剣で切り伏せると、土煙の中から現れたレオニードに突進した。
「ちぃ!」
 舌打ちをして迎え撃つレオニードの顔に、すでに余裕はない。
 マントの下から跳ね上がった無数の鎖が頭上から殺到するのを一瞬の踏み込みでかわし、シグムントはレオニードの懐に入り込んだ。
 刺突。
 必死の形相で身をひねったレオニードの脇腹を引き裂く。レオニードがそのまま仰向けに倒れ込むのを見、シグムントはすぐに剣を構え直した。
 逃がさない。
 気を抜くこともしない。
 ここで一気にけりをつける。
 引き寄せたチャンスにそう断じ、視界の端に、レオニードを助けようとするサランダに必死でまとわりついているカペルの姿を捉えながら、シグムントは倒れた仮面の男を見下ろし、剣を構えた。
「終わりだ、闇公子レオニード」
 剣を振り上げる。
 この一撃で全てが終わる。
 そう思った瞬間、シグムントの手から剣がこぼれ落ちた。
 手が震え――
 身体が硬直し――
 口から血があふれ出す――
「ぐっ……」
 口に当てた手は吐血を抑えきれず、シグムントは自分の血で赤く染まった石畳の上にうずくまった。
 くそ、こんなときに……。
「……くくく、ふははははははは。やはり神に愛されているのは余だ。そなたではないのだよ、英雄! ふふははははは」
 シグムントを蹴り飛ばし、レオニードは笑い続けた。
「さしもの英雄も病には勝てぬか。さあ、どう料理してくれよう」
 勝利を確かめたレオニードの高笑いが響き、役者じみた態度で考えてみせる。
「ふむ。英雄を生け贄に捧げれば、我が神もさぞかしお喜びになるだろう。そなたには贄の世界へと行ってもらうとするか。溜め込んだ力を使うのは少々もったいない気もするがな」
「シグムントさん!」
 カペルの声が聞こえ、再び視界の端にその姿を捉える。サランダにやられたのか、血を流してはいるようだがカペルは無事だ。そう確認した直後、カペルに視線を移していたレオニードが、再びシグムントを見下ろして言った。
「いや、そなたはもう残滓に過ぎぬ、か……。希望を奪われ苦しみにのたうち回る姿を見るのも一興」
 そう言ってレオニードがカペルの方へと歩み寄りながら、月印の力を解放させる。
「やめろ、レオニード……」
 絞り出した声に振り返ったレオニードが不敵に笑い、紫色の雷光を迸らせる光球が頭上に掲げられた。それは一瞬にして膨れあがり、その内部に、ここではないどこかの光景を映し出す。
「消えろ」
 ばりばりと音を立てて空間を抉り出す光球は、別の空間につながる門となる。
 カペルを取り押さえていたサランダが飛び退くが、眼前に展開される異様な光景に圧倒されたのか、カペルが動けずにいる。
 まずい。あそこに引きずり込まれては……。
 本能的にそれが致命的な何か、カペルの生命を奪う、致命的な何かだと理解する。
 瞬間、カペルが危ないと爆発した感情が、動かぬ身体を無理矢理動かした。
 床を蹴り、シグムントはレオニードに飛びついた。
 油断をしていたのか、反応の遅れたレオニードに手が届く僥倖に、離さないと決めた意志でとりつく。シグムントは、最期の力を振り絞って、光球を操るレオニードの腕を引き寄せた。
 驚愕の色を浮かべたレオニードが振り払おうとする。しかし、自らが作り出した光球に引かれ始めた身体が、シグムントともども、徐々に宙に浮かびだす。
 そうだ、これでいい……。
「は、離せ、英雄!」
 英雄。
 それはもう、自分を呼ぶ名ではない。
 膨れあがった光球の向こうに吸い込まれながら、シグムントはただ、カペルの目を見つめていた。
 こちらに向かって叫んでいる、自分と同じ顔の少年。
 もう声は届かない。だから、心の中で語りかけた。
「カペル、月の力に頼らず、おまえはおまえのまま強くなれ」
 伝えたいことはまだまだあった。だが、言葉にせずとも、それはいつかカペルに届くと思える。
「強く生きろ、カペル」
 白濁していく世界の向こう側に、シグムントは声にならぬ声を残して消えた。

「カペル、世界を任せた――」

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